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サクラホクトオー列伝~雨のクラシックロード~

『世代を超えるために』

 何はともあれ、菊花賞で見せた「世紀の怪走」は、ファンがサクラホクトオーの実力を改めて見直すきっかけとなった。

 サクラホクトオーの次走は、古馬との初対決となる有馬記念(Gl)に決まった。この年の有馬記念には、「強い古馬」の代表格ともいうべきオグリキャップ、スーパークリーク、イナリワンという「平成三強」が揃い踏みしていたが、サクラホクトオーは、この世代決戦に、4歳世代の代表格として臨むことになったのである。

 サクラホクトオーは、単勝1260円とはいえ、オグリキャップ、スーパークリークに次ぐ支持を得た。天皇賞・春(Gl)、宝塚記念(Gl)を連勝したものの、秋は不振が続いていたイナリワンを追い落としての3番人気となる。

 当時、サクラホクトオーと同世代のクラシック馬たちは、それぞれ悲運の淵であえいでいた。ダービー馬ウィナーズサークルと菊花賞馬バンブービギンは、菊花賞後に故障し、長期にわたる戦線離脱を余儀なくされ、皐月賞馬ドクタースパートも、皐月賞制覇を最後に長い不振に陥っていた。この日出走表に名を連ねた4歳馬は、サクラホクトオーを含めて3頭だったが、サクラホクトオーは、皐月賞馬ドクタースパート、ダービー2着、菊花賞3着のリアルバースデーを大きく上回る支持を集めて世代のエースとしての期待を集めていた。

 ただ、この日の中山競馬場は、雨がちらつくぐずついた天気だった。

「この馬が走る時は、なぜか雨が降るね・・・」

 境師や小島騎手は、ため息をつきながら、レースの時までに雨がやむか、せめて馬場状態だけはあまり悪くならないよう願うしかなかった。

『雨の有馬記念』

 結局、彼らの願いは天に通じることなく、雨はやむことなく有馬記念のスタートを迎えることになった。

 レース開始直後に先手を取ったのはダイナカーペンターだったが、その直後にオグリキャップがつけ、スーパークリークもそのオグリキャップをマークしたため、レースは緩みのない展開となった。そんな中で、サクラホクトオーは後方3、4番手から追走する。

「この天気だから、せめて馬場のいい外を回ろう」

 それは、サクラホクトオーの実力を発揮するための作戦だった。菊花賞の暴走は論外としても、無理に内を衝くと、この馬はゴールにたどり着く前に走る気を失ってしまう・・・。それだけは、避けなければならなかった。

 外を回り、向こう正面のあたりで馬群がごちゃついて前と後ろが入れ替わり始めてからもわが道をゆくように後方を追走するサクラホクトオーに、走ることをいやがっている様子はない。ただ、菊花賞でのこともあって、この馬だけはゴールしてみないと分からないというのが正直なところだった。

『平成三強への道』

 今日のサクラホクトオーは、走るのか。その答えが与えられたのは、直線に入ってからのことだった。

 第4コーナーでオグリキャップが先頭に立ったのも一瞬、スーパークリークが満を持して仕掛けると、レースは終末に向かって動き始める。馬群を抜け出したスーパークリークに、秋の不振から立ち直ったイナリワンが襲いかかる。栄冠の行方は、この2頭に絞られた。

 だが、徹底的に内の荒れた馬場を避けて外を衝いてきたサクラホクトオーが最後に見せた末脚は、3歳時、そして菊花賞を思わせる出色の切れ味だった。直線に入ってもまだスーパークリークからは5、6馬身ほど遅れたところにいたサクラホクトオーだったが、残り200m付近から加速すると、ランニングフリー、そしてオグリキャップをかわして3番手まで押し上げてきた。これまで泣かされ続けてきた雨にも関わらず繰り出した豪脚は、サクラホクトオーの新たな成長を感じさせるものだった。

 サクラホクトオーの豪脚は、最後にハナ差差し切ったイナリワンと、惜しくも敗れたスーパークリークには2馬身半及ばなかった。だが、「平成三強」と同じ舞台に立って戦い、人気ではイナリワン、そして着順ではオグリキャップを「食った」形で3着という結果を残したことは、1年間ずっと不振に苦しみ続けたサクラホクトオーが本来期待されていた地位・・・世代のリーダーとしての地位を手にする転機になるはずだった。もともと、素質の高さでは同期のクラシック馬たちをはるかに凌ぐ評価を得ていたサクラホクトオーである。サクラホクトオーに期待されたのは、屈辱とともに1989年を過ごした雪辱を果たすため、翌90年に向けての反攻だった。

 1990年の初戦・・・AJC杯(Gll)に出走したサクラホクトオーは、Gl馬不在の格下が相手だったとはいえ、単勝150円の断然人気に応え、中団から鋭く伸びる悠然たる横綱競馬で、朝日杯3歳S、セントライト記念に続く重賞3勝目をあげた。サクラホクトオー陣営が目指す先にあるもの・・・それは、競馬界に君臨するオグリキャップ、スーパークリーク、イナリワンという「平成三強」が待ち受ける古馬Gl戦線であり、かつての彼に期待されていた最強馬への道だった。・・・だが、後から振り返るならば、AJC杯の勝利は、サクラホクトオーの競走馬としての最後の輝きとなった。

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