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ニホンピロジュピタ列伝・未知に挑んだ馬

『覚醒』

 降級後わずか1戦で準オープン級に復帰したニホンピロジュピタは、ここでも自己条件である準オープンではなく、マリーンS(OP)へと向かった。目野師らの思いの中で、ニホンピロジュピタが立つべき舞台は、どの時期であっても準オープンを含めた条件戦ではなく、オープン、あるいはそれ以上のクラスのレースだった。

 マリーンSに出走したニホンピロジュピタは、単勝210円の1番人気キングオブジェイに次ぐ、単勝370円の2番人気に支持された。もっとも、キングオブジェイの臨戦過程も、前走の竜飛崎特別(900万下)を勝った後に格上挑戦してきていて、ホンピロジュピタと変わりない。実力は人気ほど差がないはず・・・。ニホンピロジュピタ陣営の彼に対する思いは、いまだに変わっていなかった。

 すると、逃げたキングオブジェイを好位から追走したニホンピロジュピタは、直線でしっかりと他馬を差し切った。これまで重賞での3着、オープンや準オープンでの2着を繰り返し、足踏みを強いられてきたニホンピロジュピタだったが、本賞金を積み上げたことで、ついにオープン入りを果たしたのである。

「これでようやくニホンピロジュピタを大きなレースに送り出す足がかりができる・・・!」

 期待に見合う実績を残すためには、まずその舞台に立たなければ始まらない。ニホンピロジュピタの進撃は、この時ようやく始まったのかもしれない。

『再びの舞台で』

 オープン馬となったニホンピロジュピタが立つ2度目のダート重賞は、前年に続くエルムSとなった。前年にタイキシャーロックをはじめとする一線級のダート馬を相手に、準オープンの身ながら3着に入ったものの、本賞金の加算に失敗し、その後の足踏みの原因ともなった因縁のレースである。

 ニホンピロジュピタの鞍上には、小林騎手の姿があった。夏競馬の季節は北海道に滞在して騎乗することが常だった小林騎手にとって、この季節はニホンピロジュピタと接する機会が特に多かった。鞍上は、これまでの19戦のうち8戦を小林騎手と武騎手、残る3戦を本田騎手が務めていたが、5勝のうち3勝は小林騎手が挙げている。騎手としては95年に34勝(障害1勝を含む)を挙げたものの、その後は年間20勝前後にとどまっていた小林騎手だったが、ニホンピロジュピタとの相性は良かったようである。

 この年の出走馬たちの中でのニホンピロジュピタの単勝オッズは、310円だった。2番人気ではあったが、単勝250円で1番人気のオースミジェットとの差は、決して大きいわけではない。

 ちなみに、99年に入ってから本格化したオースミジェットは、Glこそ未勝利ながら、この時点で既に平安S(Glll)、名古屋大賞典(統一Glll)、アンタレスS(Glll)、マーキュリーC(統一Glll)とダート重賞4勝をあげていた。これにダート転向初戦の仁川S(OP)を圧勝した外国産馬デピュティーアイス、マリーンSに続く対決となるキングオブジェイまでが一桁配当で、これ以外にGl馬として前年のダービーグランプリ(統一Gl)を制したナリタホマレも出走してきていたものの、距離不足などが不安視されて単勝3890円の7番人気にとどまっていた。

 そうした情勢の中で、小林騎手は、

「できることなら、オースミジェットを見ながらレースを進めたい・・・」

と考えていた。

 そして、人気薄のメイショウヒダカがレースを引っ張る展開となったのを見ると、小林騎手はニホンピロジュピタを好位につけた。これに対してオースミジェットは、当初こそニホンピロジュピタよりも後方につけていたものの、やがて向こう正面で早めの進出を開始した。小林騎手は、最大の敵を視界に入れながら仕掛けどころをうかがう、思惑通りの位置取りとなっていった。

『制覇の深遠』

 第4コーナーを回って直線に入ると、

「状態が良かったし、進路さえ取ってあげればと考えていた。包まれないように乗った」

という小林騎手は、満を持してニホンピロジュピタを外に持ち出し、ゴーサインを出した。すると、ニホンピロジュピタがそこから見せた反応は、小林騎手の想定を大きく上回っていた。

 ニホンピロジュピタは、弾けるような末脚を爆発させた。オースミジェットを、そして他の馬を一瞬のうちにかわし、みるみる突き放していく。・・・気がつくと、オースミジェットを5馬身突き放しての圧勝だった。

 こうしてニホンピロジュピタは、3連勝を飾るとともに、初めての重賞制覇を果たした。

 目野師は、大沼Sで6着に沈んだ頃から、馬の充実をはっきりと意識していたという。

「この後は南部杯に向かうことにしました」

 そう明かされた彼の次走は、ようやく挑むことを許されたひのき舞台の統一Glだった。

 小林騎手にとっても、この日のエルムSは、ニホンピロプリンスで勝ったマイラーズC(Gll)以来3年ぶり2度目の重賞制覇である。

「今回のようなレースができれば、重賞路線でもコンスタントに力を発揮できると思います」

 新馬戦から騎乗してきた小林騎手は、それゆえにニホンピロジュピタの本格化を力強く感じていた。果たして彼は、「次」に訪れるものを、果たしてどの程度予感していたのだろうか。

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