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シンコウウインディ列伝~数奇なる初代ダート王~

『衝撃の事件』

 ところで、この時点でのシンコウウインディは、まだ単なる2勝馬にすぎない。重賞出走歴もない彼の名前を知るファンも、当然そんなに多いわけではなかった。

 そんな彼が、競馬界で一気にその名を知られるようになったのは、次走で引き起こした「ある事件」によるものだった。

 シンコウウインディは、今度は田中勝春騎手を鞍上として、館山特別(900万下)に出走した。1番人気に推されたシンコウウインディは、人気に応えて力強い走りで他の馬たちを圧倒する末脚を見せ、好位から馬群を抜け出した。ただ、彼の前にはまだもう1頭残っていた。伸びるシンコウウインディが、先頭で懸命の逃げ込みを図るダイワオーシャンをとらえることができるのか。レースの焦点は、その一点に絞られた・・・はずだった。

 ところが、そんなレースの勝負どころで、シンコウウインディは誰も予想しない・・・というより、できるはずもない行動に出た。シンコウウインディは、ゴールの直前で、ダイワオーシャンに突然かみつきにいったのである。

 幸い、ダイワオーシャンは、かみつかれるという想定外の状況にもめげず、揺るぎなき意思でゴールを目指した一方で、レースそっちのけの行動に出たシンコウウインディは、当然のことながら失速した。シンコウウインディは、ダイワオーシャンにクビ差及ばずの2着に終わった。

 シンコウウインディのかみつきは一瞬のことで、その時は何が起こったのか分からなかった人も多かった。映像だけを見ても、実際に噛みついたかどうかは確認できない。田中師も何が起こったか理解できなかった1人で、彼が検量室に下りていったところ、ダイワオーシャンに騎乗していた騎手が

「噛まれた、噛まれた!」

と大声をあげていた。シンコウウインディとダイワオーシャンの間にゴール前で何が起きていたのかをまだ正確に把握していなかった田中師は、「相手に後れを取った」ことを意味する競馬用語の「噛まれた」だと思い込み、勝ったはずの騎手がなぜそんなことを言うのかと不思議に思ったという。しかし、ダイワオーシャンは実際にはシンコウウインディに嚙みつかれており、騎手の主張が文字通り「噛まれた」という意味だったと知った時には、さすがに非常に驚いたとのことである。

『更生の条件』

 「シンコウウインディ噛みつき事件」が椿事として報じられたことで、「シンコウウインディ」の名前は、競馬界に広く知られるようになった。・・・いささか不名誉な形で。

 ファンも、シンコウウインディの不祥事に驚き、あきれた。しかし、競馬界の受け止めとしては、単に「驚き、あきれる」だけで済まされる話ではない。館山特別では幸い大事に至らなかったものの、進路妨害をとられてしまえば降着などの処分を受ける理由となる。さらに、落馬などの大事故でも引き起こしてしまえば、それこそ取り返しがつかない。

 この頃の田中厩舎では、ダートで安定した戦績を残すシンコウウインディの秋の進路として、この年始まったばかりの「ダート三冠路線」が真剣に検討され始めていた。後に説明するが、「ダート三冠路線」とは、「ダート戦線の充実を図る」という目的のもとで新設されたばかりの、JRAと地方競馬の壁を超えた全国統一の世代別ダート王決定シリーズである。

 しかし、この時点でのシンコウウインディは、条件戦を2勝しただけで、重賞には出走歴すらない条件馬である。これからひのき舞台を目指そうというのに、王者どころかレース出走の資格を問われかねない騒動で注目を集めてしまったのでは、将来が危ぶまれる・・・どころの話ではない。

 田中師は、シンコウウインディをまともに戦わせるための方法を考えた。・・・その答えは、ある意味で簡単なものだった。レースにまともに集中してくれない馬をレースに集中させるには、優れた騎手を配置するしかない。そして、それまでにシンコウウインディに騎乗した4人の騎手の中で、その任に堪える騎手は・・・ただ1人だけである。

 田中師は、シンコウウインディの秋の始動戦を「ダート三冠」の第一関門となるユニコーンS(Glll)と定め、岡部騎手に通算3度目となる騎乗依頼を出した。

「元気がいい馬だから・・・」

 ・・・岡部騎手は、苦笑いしながら、田中師の依頼を承諾したという。シンコウウインディの更生の条件は、とりあえず整った。

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