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ダイタクヘリオス列伝~女は華、男は嵐~

『乱世の風雲』

 スタートとともに先手をとりにいったダイタクヘリオスと岸騎手を待っていたのは、彼らとまったく同じことを考え、同じものを目指していたメジロパーマーと藤田伸二騎手との死闘だった。さらに不幸なことに、メジロパーマーの主戦騎手は本来山田泰誠騎手であり、藤田騎手はこれまたクセあるメジロパーマーを手の内に入れてはいなかった。

 当時の中長距離界の先導者の役割を務めたメジロパーマーと、短距離界を代表する先行力を誇るダイタクヘリオス。2頭の実力ある逃げ馬が競り合うことで、第106回天皇賞・秋は激流の中へと飲み込まれていった。1000mの通過タイムは、57秒5で、2000mのレースであるにもかかわらず、1800mの毎日王冠より0秒9も速かった。・・・こんな狂気のペースで、最後まで持つはずがない。

 メジロパーマーとの意地の張り合いは、メジロパーマーがまず脱落し、第4コーナーを迎える前に馬群へと沈んでいったことでダイタクヘリオスが「勝利を収める」結果となった。だが、その勝利の代償は、ダイタクヘリオス自身にも重くのしかからざるを得なかった。直線に入り、絶望的な逃げ込みを図る彼に対し、後方からはもう黒い影が迫っていた。

 ダイタクヘリオスは、死力を尽くして頑張った。1600m1分33秒3の通過タイムも、この年の春に東京芝1600mで行われた安田記念の勝ちタイムを上回っていた。ダイタクヘリオスは、そんな狂気の時計を叩き出しながら、この時点でなお先頭を守っていた。

 そんな彼を最初にとらえたのは、トウカイテイオーだった。1番人気と3番人気、父同士の因縁と宿命を持つ馬同士の激突・・・だが、そんな夢を見るには、ダイタクヘリオスが作り出したペースはあまりにも過激にすぎた。この日のハイペースは、逃げたダイタクヘリオスのみならず、好位につけていたトウカイテイオーの余力まで奪うに十分なものだった。

『”1分58秒6”の後方で』

 懸命に粘るダイタクヘリオスを、トウカイテイオーがとらえた。だが、その攻防は一瞬のことだった。それと時を同じくして、外からは一気に押し上げてきた馬群が彼らを飲み込んだ。ダイタクヘリオス、トウカイテイオーとも、そこから再び馬群を抜け出すことはなかった。

 ・・・レース全体を巻き込む嵐のような逃げで、存在感こそ十分に示したダイタクヘリオスだが、結局は8着に敗れた。この日のペースが狂気に近いものだった点、ハイペースを作った共同正犯ともいうべきメジロパーマーが17着だった点を思えば、健闘したということもできよう。だが、ダイタクヘリオスは、掲示板にも残れないレースを「健闘」といわれて喜べる程度の馬ではない。

 彼の作り出したハイペースが大本命・トウカイテイオーの敗因となったことを考えれば「父の仇と刺し違えた」といえなくもないが、そのトウカイテイオーが7着で先着を許していることから、仇を討った、とも断じ切れない。もっとも、ダイタクヘリオスが出走したレースでは、4歳時のスプリンターズS(Gl)をバンブーメモリーが勝って以降、彼自身が1番人気に支持された場合も含め、1番人気が17連敗というのは、恐るべき数字というよりほかにない。

 ちなみに、この日の勝ち馬は、後方待機を決め込んだ11番人気のレッツゴーターキンだった。彼の勝ちタイムは、くしくも毎日王冠の後、梅田師と岸騎手が天皇賞・秋の優勝想定タイムとしていた「1分58秒6」ちょうどだった・・・。

『レディ・ファースト』

 天皇賞・秋で敗れたダイタクヘリオスは、前年に続いてマイルCS(Gl)に出走することになった。天皇賞・秋ではメジロパーマーと壮絶な逃げ比べを演じて共倒れになったダイタクヘリオスだが、今度はメジロパーマーはいない。自分自身のレースができるはずである。

とはいえ、この日のダイタクヘリオスは、単勝500円で2番人気にとどまった。マイルGlでの実績を考えれば1番人気になっても何ら不思議はない。

 しかし、この日1番人気に支持されたのは、Careleon産駒の良血外国産馬・シンコウラブリイだった。シンコウラブリイはこの時まだ4歳馬だったが、4連勝中で底を見せない強さを見せていた。富士S(OP)からの連闘という変則的なローテーションではあったが、ほとんど競馬をせずに勝った前走の内容などから、Gl登頂計画に死角はないとみられていた。

 そういえば、前年のマイルCSで1番人気に支持されたのは、彼の宿敵・ダイイチルビーだった。最大のライバルなき後も、あくまで1番人気を牝馬に譲るあたりは、馬券的にはダイタクヘリオスの不安定さを物語るものだが、その一方で女性に弱い「フェミニスト」としての彼の個性でもあった。

『共闘の果てに』

 だが、ダイタクヘリオス陣営を包んでいたのは、これまでにない楽観的な、期待に満ちた雰囲気だった。

 レースの枠順の抽選で、彼らは大外18番枠を引き当てた。先行策一手の馬の場合、スタート直後に先手を取りにくくなる外枠は、むしろ不利となる。しかし、梅田師、岸騎手らは、18番枠を引き当てた時、むしろ大喜びしたという。

「へたに内枠で包まれるより、外枠から自分のペースで競馬をした方がいい」

 梅田師からの岸騎手に対する指示は、この年も

「ハナに立たないように」

というものだったが、指示を受けた岸騎手の気持ちは少し違ったものだった。

「去年とは違って、力を出し切りさえすれば、勝てるだろう」

 馬の力を出し切るために、先頭に立つことが最善と考えたはいいが、その考えにこだわりすぎたあげく、天皇賞・秋ではレースを壊してしまった岸騎手だった。だが、今度は違う。ダイタクヘリオスの状態には万全の自信を持っていたし、前のレースへの反省もあった岸騎手は、いい意味で開き直っていた。今のダイタクヘリオスなら、逃げようと、好位だろうといい競馬はできるはず。ならば無理にひとつの形にこだわることはない、と・・・。それは、長いコンビ、共闘の歴史の中で、苦悩の果てに岸騎手がたどり着いた確信の至りだった。

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